大判例

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名古屋地方裁判所 平成9年(わ)2017号

主文

被告人を懲役一年及び罰金五〇〇万円に処する。

罰金を完納することができないときは、五万円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。

この裁判が確定した日から三年間懲役刑の執行を猶予する。

理由

(犯罪事実)

被告人は、神戸市西区学園東町八丁目二番二号に居住し、オリックス野球クラブ株式会社と一九九四年度野球選手契約を締結したプロ野球選手であり、平成六年分の被告人の所得税の申告手続を「中小企業相談協会」会長を自称する坂本行徳こと坂本幸則と、小菅誠に依頼したものであるが、坂本、小菅と共謀の上、被告人の平成六年分の所得税を免れようと考え、架空の顧問料を計上する方法により所得を秘匿し、被告人の平成六年分の実際の総所得金額が一億二三四〇万一六八四円であり、これに対する所得税額は源泉徴収された税額を控除して一五九八万九〇〇〇円であるのに、平成七年二月二八日、兵庫県明石市田町一丁目一二番一号の所轄の明石税務署において、同税務署長に対し、総所得金額が七三四〇万一六八四円で、これに対する所得税額は源泉徴収された税額を控除すると四四九万九五一円の還付を受けることになるとの虚偽の所得税確定申告書を提出し、不正の行為により、被告人の平成六年分の所得税額との差額二〇四七万九九〇〇円を免れた。

(証拠)カッコ内の甲乙の番号は、検察官請求証拠番号を示す。

一  被告人の公判供述、検察官調書(乙2)

一  小森哲也(甲4)、坂本行徳こと坂本幸則(甲5、6)、小菅誠(甲7、8)の検察官調書謄本

一  証明書(甲1)

一  査察官調査書(甲2)、査察官報告書(甲3)

(法令の適用)

罰条 平成七年法律第九一号による改正前の刑法六〇条 所得税法二三八条一項

刑種の選択 懲役刑と罰金刑の併科刑

労役場留置 前記改正前の刑法一八条

執行猶予(懲役刑) 前記改正前の刑法二五条一項

(量刑理由)

本件は、プロ野球選手である被告人が、多数のプロ野球選手の脱税工作を請け負っていた坂本らと共謀して、架空の顧問料を計上する方法により、二〇四七万九九〇〇円の所得税を免れた事案である。

国民一般の感覚からすれば、脱税額は相当に多額で、ほ脱率も約四七パーセントと低くない。同様の犯行で起訴された他のプロ野球選手の脱税額に比べても、被告人の脱税額は多い。また、被告人は、犯行後、税務調査がなされた際に、坂本の勧めで、言い逃れのための架空の顧問契約書まで作成している。そのほか、多くのプロ野球選手等が安易に脱税に関与しており、プロ野球界全体の信用を傷つけていることなども考えると、本件犯行に対しては厳しい処罰が必要である。そうすると、被告人の刑事責任は重い。

他方、被告人はプロ野球選手になった時期が遅く、プロ野球選手の寿命の短さなどを考え、できるだけ手元に金を残しておきたいという気持ちから、高率な税負担を免れようとしたものである。プロ野球選手の紹介で共犯者の坂本に会い、犯行を誘われたが、すぐには応じず、坂本に有名選手の名をあげられるなどして強く誘われて犯行に及んだが、正規の納税額より多額の報酬や税金を支払っている。被告人は、犯行後の税務調査に対し、最終的には係官に事情を明かして、自ら修正申告をし、未確定の重加算税を除き、正規の税額や延滞税を納付している。契約金の多額さや選手の税務知識の乏しさなどから見て、球団等も納税についてより積極的で、きめ細かな指導をすべきであった。被告人は、マスコミ等で大きく報道され、また球団から自宅謹慎等の処分を受けるなどの社会的制裁を受けており、今後球団やコミッショナー等の処分も予想される。また、被告人は、プロ野球選手としてチームの重要なメンバーであり、同僚の信頼も厚いこと、球団役員や監督、同僚選手、妻等から寛大な処罰を求める嘆願書も提出されていることなど、被告人のために酌むべき事情も認められる。

以上の事情を考慮し、主文の懲役刑及び罰金刑に処し、懲役刑については、相当期間刑の執行を猶予した。

(求刑―懲役一年及び罰金六〇〇万円)

(裁判官 安江勤)

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